瓦は古くから世界中で「優れた屋根材」として使われてきました。
しかし日本は台風や地震といった、建物にとっては苛酷な天災が頻発する地域です。
そういった状況下で瓦をしっかりと屋根に固定できないとなれば、その優れた性能を十分に活かすことはできず、肝心な雨仕舞いすら満足にできない状態になってしまいます。
では、どのようにして瓦を屋根へ固定すれば良いのでしょうか?
実は瓦の葺き方・工法は、天災とともに発展してきました。
これは、建築基準法においても、同様のことが言えます。
そこで今回は、天災と葺き方の変遷を、歴史とともに紐解いて行きましょう。
建築基準法の礎となった「関東大震災」
今からおよそ100年前、1923年(大正12年)に関東大震災が発生しました。
被害状況は10万人以上が死亡あるいは行方不明、建物では全壊が10万棟を超えています。
それまでの瓦の施工は、土を水でこねたものや漆喰で瓦を固定する工法「土葺き」が主流でした。
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土や漆喰でできた「葺き土」が断熱材の役目も果たし、夏の暑さをしのいだり、雨音を静めたりといった快適性への効果もありますが、一方で葺き土が重く建物の負荷になっていたり、接着性の弱さから地震や台風などで瓦がズレたり、20年前後で葺き土の接着性がなくなり葺き替えが必要になるなど、デメリットもありました。
関東大震災を受けて改正された「市街地建築物法」(建築基準法の前身)では、瓦は「引掛け」を備えた瓦か、「釘止め」することが定められました。
「土葺き」から「引き掛け桟空葺き工法」へ
関東大震災後は、市街地建築物法の改正もあり、桟木で瓦を固定する「引掛け桟空葺き工法」が主流となって来ます。
引掛け桟が腐らない限り縦ズレがしないというメリットがあるほか、従来の土葺きに比べて屋根の重量が軽くでき、また野地との間に隙間ができるため、通気性にも優れ結露などによる構造材の劣化を防止できます。
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瓦の緊結を義務化した「伊勢湾台風」
1959年(昭和34年)、紀伊半島から東海地方を中心に全国規模で襲ったのが、伊勢湾台風でした。
死者・行方不明者を合わせて5,098人、建物では全壊家屋36,135棟、半壊家屋113,052棟という甚大な被害をもたらしました。
これを受けて改正されたのが、「建設省告示109号」。
基礎が布基礎となり、必要耐久力壁量も強化されています。
屋根では、瓦の緊結が義務化され、軒やけらばの瓦を銅線やくぎなどで下地に緊結することになりました。
棟部についても、同様に緊結が義務化されました。
耐震基準の見直しを迫られた「宮城県沖地震」
伊勢湾台風以降、宮城県沖地震(1978年・昭和53年)を経て、1981年(昭和56年)6月に「新耐震基準」を盛り込んだ建築基準法の改正が行なわれました。
これは建物に関する大きな転換期となり、これ以前の基準で建てられた建物を「旧耐震」とよんでいます。
瓦関連では台風19号(1991年・平成3年)なども経て、住宅金融公庫の基準や日本建築学会などの仕様書により、釘打ちまたは緊結しなくても良い瓦の間隔がどんどん狭まって強化され、棟部施工の金物なども少しずつ充実して行きます。
そんな中、1995年(平成7年)に阪神淡路大震災が発災します。
建築基準を大きく変えた「阪神淡路大震災」
1995年の阪神淡路大震災でも、多くの被害が発生しました。
死者6,435人、全壊104,906棟、半壊144,274棟。
関東大震災以来の甚大な被害がありました。
この震災により、建築性能の規定化や中間検査の導入などを盛り込んだ「建築基準法改正」(2000年・平成12年)が施行されました。
また全日本瓦工事連盟では、「平部は全数釘打ち、棟部は棟芯材、補強金物を用いて加速度1Gでも脱落しない」こととした「瓦屋根標準設計・施工ガイドライン」を2001年(平成13年)発行。
瓦屋根の風や地震に対する脆弱性を改善するための設計・施工の方法を、とりまとめています。
安全性への進化は止まらない
2000年(平成12年)の建築基準法改正以降も、2004年(平成16年)の新潟中越地震を経て2005年(平成17年)にも改正が加えられています。
さらに2006年(平成18年)には耐震強度構造計算書偽装事件「姉歯事件」が起こり、2007年(平成19年)には建築確認申請の厳格化などを盛り込んだ建築基準法の改正が、2011年(平成23年)の東日本大震災を受けて、天井の構造耐力などについての改正が2013年(平成25年)に行なわれています。
瓦関連でも、上下で隣接する全ての瓦がツメやジョイントで噛み合い、瓦の浮き上がりやズレを抑える「防災瓦」が普及。
さらには瓦の固定に発泡ウレタンの強力な接着剤を使う、米国で開発された「ポリフォーム工法」なども日本へ上陸、注目が集まっています。
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皮肉にも、天災とともに強化されてきた、住まいの安全性。
しかしそれは、人がきちんと学習し、「次の発災では被害を出さない」という、固い決意の表れとも言えます。
こうして住まいは、どんどん快適になって行くのですね。