■ 現代の住まいで圧倒的なシェアを持つ化粧スレート
瓦屋根が並んだ景観は日本の原風景として観光客に人気となっています。特に近年はインバウンド(訪日外国人旅行)ブームの影響もあって、昔ながらの瓦屋根の家屋を保存している地域は海外からも熱い注目を集めています。残念ながら現在では、一般の住宅で施工されている屋根材としては、初期コストや施工性などの関係から「コロニアル」や「カラーベスト」とも呼ばれる「化粧スレート」が普及しています。
そこで今回は瓦の話から離れて、化粧スレートについて、そのメリット・デメリットやメンテナンス方法についてご紹介します。
■ スレートとは?~天然スレートと化粧スレートの違い
そもそも「スレート」とは、粘板岩を厚さ5mm程度に薄く割って作られた天然の屋根材のことです。粘板岩とは、堆積した砂や泥が圧力を受け、長い年月をかけて作られる青黒色の天然石です。これが、ヨーロッパなどで古くから屋根材として使われてきた「天然スレート」です。
日本における天然スレートは、明治・大正期にブームとなった「洋風建築」の屋根に多く使用されてきました。2012年に復元された東京駅の屋根にも、1914年の創建時と同様に天然スレートが使われています。
しかしこの天然素材は非常に高価でもあるため、日本の一般住宅ではあまり使用されることはありません。代わりに普及しているのが、1961年に登場の「コロニアル」をはじめとした人工のスレート、いわゆる「化粧スレート」です。
化粧スレートとは、本来の天然スレートを摸して、繊維素材を混ぜたセメントを板状に加圧成形し、塗装した日本独自の屋根材です。いわば「摸造スレート」という見方もできますが、工場で大量生産が可能ですので、非常に安価に作ることができる点で大きく異なります。
なお化粧スレートの原料の繊維素材には、かつてアスベスト(石綿)が使われていました。しかし健康被害が叫ばれて2004年に使用が禁止されてからは、石綿以外の繊維質原料が使われています。
■ 化粧スレートのメリット
・重量の軽さ
化粧スレートは薄い板状で重量が軽く、屋根全体を軽量化することができます。
・施工費用の安さ
施工の際は、ルーフィング(防水シート)の上に化粧スレートを釘で直接固定しながら敷きつめていきます。瓦では必須となる瓦桟工事のほか、棟の熨斗瓦(のしかわら)や冠瓦(かんがわら)の工事、面戸漆喰工事などが不要なため、トータルの施工費用を安く抑えられます。工数が少ないため工期も短く済み、屋根材の中で最もコストをかけずに施工できます。
・デザイン性の高さ
薄くてシンプルな形状のため、複雑な形の屋根にも適しています。色の種類も豊富なため、外壁のデザインに合わせることが可能です。
・施工業者の多さ
普及率が高く施工も単純化されていることから、化粧スレート屋根の工事に対応できる業者も多く、施工や修理もすぐにできます。
■ 化粧スレートのデメリット
・定期的なメンテナンスが必要
表面の塗装が剥がれてくると基材自体の劣化も進むため、一般的には10〜15年ほどで再塗装が必要と言われています。塗膜が剥がれたりコケやカビが生えたりなどで汚れが目立ちやすく、経年劣化で基材自体がボロボロになっているケースも多く見られます。
・結露による野地板の腐食の恐れ
化粧スレートは、野地板に貼り付けられたルーフィング(防水シート)に密着して施工されます。野地板との間に空気層がなく、また化粧スレート自体も断熱性が低いため、背面結露が発生する危険性が高いことが指摘されています。
・耐久性が低い
意外に思われるかもしれませんが、化粧スレートは割れやすい屋根材です。経年によって基材が劣化して、ひび割れたり反ったりする自然劣化のほか、施工時の踏み割れが後々表面化することもあり、定期的な点検が必要です。
・アスベストの不安
2004年に建築材へのアスベスト使用が禁止されるまで、化粧スレートの原料にもアスベストが含まれていました。セメントで凝固されているため、屋根の上に載っている状態では人体への影響は心配ありません。しかし、修理や解体の際には飛散する可能性があり、周辺住民や作業者の健康被害を考慮した特殊な施工方法をしなくてはなりません。
また葺き替えや解体で出たアスベスト含有屋根材の廃棄処分も許可施設でしか行なえず、費用も非常に高額になります。
■ 安全神話が崩壊!? 台風で化粧スレートが吹き飛ばされる被害も発生
化粧スレートは、重量が軽く躯体への負担が少ないこともあり、耐震面で有利なイメージがあります。しかし災害に強いと思われている一方で、近年大型化している台風や局所的に発生する竜巻によって化粧スレートが吹き飛ばされる被害が報告されています。
たとえば2018年に首都圏を襲った台風24号では、木造3階建ての住宅で化粧スレートの屋根材が剥がれる事故が発生しました。200枚もの破片が周囲に飛び散り、一部が近隣住宅の窓ガラスを突き破り、ガラスの破片が室内に散乱。屋根材の施工不良などがなかったにもかかわらず、大きな被害となってしまいました。
そのほかにも、台風によって化粧スレートが吹き飛んだり、剥離・脱落したりした例が出ています。化粧スレートの飛散までは至らなかった場合でも、強風によってめくれや隙間ができ、雨水侵入の危険性が生じているケースもあります。
初期施工費が安いからと化粧スレートを選んでも、日常のメンテナンスに加え、災害の度に点検や修理でコストがかさむようでは意味がありません。
■ 災害に備えた施工方法
2018年、和歌山で最大瞬間風速52.3m/sを記録した台風20号、そして東京で最大瞬間風速45.6m/sを記録した台風24号など、最近は地域の観測記録を更新するような非常に強い台風が数多く発生しています。
雨漏り対策はもちろんですが、屋根材の飛散などで近隣に被害を与えるのを防ぐためにも、災害に備えた早めの対策が大切です。
毎年ハリケーンによって屋根被害が発生していたアメリカ・フロリダ州では、釘やビスに代わる強力接着剤「ポリフォーム」での施工が義務付けられています。ポリフォームは、風速70mの雨風でもびくともしない強靱な接着力が証明されています。
ポリフォームは瓦や化粧スレート、天然スレートなどあらゆる屋根材に使用できます。化粧スレートのデメリットである、釘穴による雨漏りの心配もありません。また、ポリフォームと同様の硬質ウレタンフォームである「ポリワン」も、小さいガンタイプで補修などに便利です。屋根のメンテナンスや葺き替えの際には、ポリフォームやポリワンで、災害による被害を抑える屋根づくりをおすすめします。
【ポリフォーム日本代理店会】
http://www.polyfoam.jp/